構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

プロとは言えども準備期間をしっかりとるべきだ

──11月に侍ジャパンの強化試合がありました。昨年の同じ時期にはプレミア12が開催され、2016年3月にもチャイニーズタイペイとの強化試合が行われるなど、来春の第4回WBCに向けた準備が着々と進んでいます。中畑さんは強化試合の日本代表の戦いぶりを見て、どのようなことを感じましたか?

中畑 11月の強化試合では、いまの日本代表の弱さが見えたな。結果としては3勝1敗だけれども、メキシコとオランダの方が勢いがあったよ。早めに日本に入ってしっかり調整するなど、準備の仕方も良かった。日本代表も早いうちに準備して戦うことを考えないと、短い時間でチーム力をアップさせるのは難しいと思うよ。一緒に過ごす時間をしっかりとることでより高度なチームプレーができるようになるし、監督もサインも出しやすくなるから。短期だと的確にサインが出しにくいんだよ。

──本当の意味で“あうんの呼吸”にはなっていない?

中畑 そうだな。気持ちの通ったチーム力を生み出すには、ある程度同じ場所、同じ時間帯を過ごして、お互いの内面まで入り込まないと。そうすれば、選手の特徴をより生かしたサインが出せるし選手もスムースに動けるから、おのずと得点力もアップする。今回はそういう時間が少なかったからな。来年3月の本番では、大会スケジュールをきちんと逆算して、必要な調整期間を確保したした方がいい。

──中畑さんは2004年のアテネ五輪のときに長嶋茂雄監督が病床に倒れるというアクシデントもあって、日本代表の指揮を獲りました。準備期間はどの程度あったんですか?

中畑 オリンピックの場合は、結構時間をかけられたよ。練習試合をこなしながら、現地に入る前にミニキャンプも張ったし、ある程度じっくりチーム作りができた。だから、サインも出しやすかったな。結果的に失敗に終わったケースもあったけれど、選手がベンチの考えをある程度先読みしてくれて、多彩な戦術を積極的に仕掛けられるまでになったんだ。でも、過去のWBCを見ても、そのときに比べて代表チームが調整する期間が短すぎる気がするな。早くに集めるのは選手にとっても大変だけれども、本気で勝つためにはそういった準備をしっかりさせることを考えなくてはいけないだろう。

──最低でどの程度期間がほしいですか? 1週間くらい?

中畑 それくらいでは、本当に“最低”にしかならんぞ。先発ピッチャーの登板感覚を逆算しなくてはいけないから。予選での対戦スケジュールも踏まえてローテーションを決めたうえで、壮行試合の日程も組む必要がある。できれば10日くらいはほしいな。

──招集後の後半は、先発を予定している投手陣をひと回りさせるような日程で練習試合をこなすイメージですね。

中畑 そうそう! 助走をつけるように調子を上げていく感じが理想だな。

山田哲人は代表合流前からサードの練習をせよ!

©Baseball Crix

──内野手の連携プレーは、プロ同士なので短期間で足並みを揃えられるものですか?

中畑 いや、内野手もある程度の期間がほしい。全員がシーズン中と同じポジションの場合はさほど苦労はしないと思うけれど、今回の日本代表チームにしても山田(哲人/ヤクルト)と菊池(涼介/広島)のポジションが被るから山田がサードを守ることになるだろう? 11月の強化試合のときも慣れていない部分があからさまに出ていた。それを考えると、準備期間は長く確保しなくてはならないと思うぞ。

──山田、菊池の“セカンド問題”は、なにげに深刻ですよね。

中畑 問題だろう! 有能なふたりの選手をどのように生かすかを考えたら、ポジションに対する意識を十分考慮してあげなくてはいけないよ。サードに回った山田自身が守備に不安を抱えたまま大会に入ったら、バッティングにも影響する可能性だって出てくるんだから。「セカンドからサードなら楽だろう」なんて安易に思ったらとんでもない! オレもサードからファーストに移ったときに感じたけど、右と左では見る景色がまったく違う。感覚的にはもう別物。「集中しなきゃいけない」という余計な神経を使うからより疲労も激しいしな。

──となると、どうするべきでしょうか。

中畑 だから、しっかりとした準備期間を設けて、納得して配置させなくてはいけない。ポジションに対する不安感を取り除かないと実力を発揮できないからな。

──たとえば、山田には代表合宿に合流する前から、キャンプでサード守備の練習をさせるよう、小久保(裕紀)監督がヤクルトの真中(満)監督に要請するとか?

中畑 そのくらいのことをした方がいい。大事なことだと思うよ。自チームの監督としっかり話し合いをして準備をさせる。そういう努力が必要だよ。

小久保監督はもっと積極的に動く野球をしてほしい

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──小久保監督の采配については、どのように評価していますか?

中畑 就任以来ずっと試合を見ているけれど、いまのところは「悪くもなく良くもなく」というところかな。タイプとしては、あまり動かない監督。選手を信頼して個々のプレーを尊重するのは決して悪いことではないが、短期決戦を考えた場合、流れがつかめないときにはもう少し動いてみてもいいと思うんだけどな。そういったことができないと空気を変えられないし、なすがままになってしまうことがあるから。それで負けたら悔いが残るじゃない? 就任したのが2013年の10月だろ。プレミア12も含めればかなり経験も積んでいるから、もっと自分のカラーを出してほしいな。動くときにはきっちり動いて、勝負を決める1点が必要なときはなんとしてももぎとるようなベンチワークを見せてほしいよ。

──逆にチームの調子がいいときには、無理せず選手にゆだねればいいわけですね?

中畑 もちろん。でも、実際にはいいときばかりじゃない。むしろ、悪い状態のときの方が多いよ。国際大会では必ず点の取れない難しい状況に出くわすからさ。そういうときは、選手を動かして得点力をアップさせることを考えなくてはいけない。動かずしてそういう空気は作れないと、オレは思うよ。仕掛ける勇気をもたなくてはいけない場面は絶対にあるだろうし、選手にとっても「いつ、どんなときでも、動くサインが出る可能性はあるぞ」という緊張感が全体にないとな。相手に与える影響も含めて、淡々と試合を進めていくだけではなく、変化を出したほうがいい。オレは、DeNAというずっと負けていたチームの監督をやっていたから、そのことを実感してきたよ。まあ、元々動かすのが好きというのもあるけどな。

大谷翔平の起用方法が世界一奪還への最大のポイント

©共同通信

──11月の強化試合では、国際仕様のボールが手につかないシーンがありました。

中畑 ピッチャーの暴投、野手の悪送球が目立ったな。あれだけミスが出るようだと、本番で自滅する可能性がある。もう少しボールに対する研究心を持たないといけないだろう。

──言い訳にしている場合ではないですよね。

中畑 ボールの規格は逃げられないことだから、それに対応するのがプロだよ。山田は「毎晩ボールを抱いて眠る」と言っていた。みんなそういう意識で全員やったらいいんじゃないか? 努力は惜しみなくしないと!

──少し気が早いですが、ポイントになる選手というと誰になると思いますか?

中畑 う~ん。筒香(嘉智/DeNA)が中軸として安定して仕事をしているんだが、それ以外のメンバーがな……。調子のいいときと悪いときがハッキリし過ぎている。悪いときに淡白さが目立ってしまうんだよな。4番も中田(翔)でいいのかどうか。一発の魅力はあっても、大会に入って打率.250くらいの調子であれば、相手にとっては怖さを感じないだろうし。チームを勇気づけるためには、4番の頑張りが本当に重要になってくるから。機動力を生かした1~3番で流れを作るためには中島(卓也/日本ハム)のような粘りのある選手の役割も大事になるだろう。あとは大谷(翔平/日本ハム)の使い方だよ。

──投手メインか野手メインか、あるいは両方か? チームのスタイルそのものを左右しかねないですね。

中畑 ただ、大谷を休ませるような使い方はないと思うから、二刀流をどう実行させるのかが焦点になるだろう。3月という早い時期にそれができるのか。いまのところはバッターメインで起用するという話も出ているけれど、ピッチャーとしても大きな戦力だけにな。ただ、大谷については、悪い流れのときでもなにかきっかけになるようなプレーをしてくれそうな期待感があるよ。今シーズンの後半やクライマックスシリーズ、日本シリーズでそういう姿を何度も見せてくれたじゃない? アイツが抑えるか抑えないか、打つか打たないかで雰囲気は大きく変わるよ。その意味では大変だとは思うけれど、オレとしては全試合に出場し続けてほしいな。

──それはピッチャーであろうと野手であろうと?

中畑 そういうこと! 逆に言うと、そのくらい大谷に頼らなければいけない状況になるだろう。レベル的にもひとり頭抜けているわけだしな。「天は二物を与えず」と言われるけれど、アイツは天から二物を与えられてしまったんだから(笑)。ただ、大谷ひとりでどうなるものではないのも野球なんだ。いずれにせよ、代表選手にはしっかりとした準備と責任をもって、最高のプレーをしてくれることを期待しているよ。11月末の報道で、「WBCは次回大会で大きな収益を上げられなければ終わってしまうかもしれない」という話も出ていたけれど、もし、本当に次が最後になるなら余計に勝たないといけない。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。

キビタ キビオ

著者プロフィール キビタ キビオ