「若手」のまま年を重ねる不安

「大和がDeNAへの移籍決意」報道から1週間たらず。
なにか遠い昔のことのようでもありますが、いまだに心がザワザワしているというのが正直なところです。
涼しい顔して華麗な守備を決める大和に、いつか内野のレギュラーを張ってほしい――そう心待ちにしていて、柿の実が熟すようにようやくその時が来たと思ったら、その実はよそ様のものになってしまう……。桃栗三年柿八年、大和は12年待ったんですけどね。

でも、大和の気持ちは痛いほどわかります。
やはり、いまだに「阪神時計」にはおかしなところがあって、「若手」が年齢を重ねて「中堅」にはなるのですが、なぜか「中軸」にはなっていきません。役割は若手のまま、年齢だけ増えていく……。
それはもちろん、選手たちにもその責任の一端はあるのでしょうが、とにかく阪神タイガース特有の時間経過のために、多くの中堅が、若手と同じ立ち位置のまま、ベテランと呼ばれる年齢に達していってしまいます。

そんな「阪神時計」が存在したまま、若手も含めた競争という「土壌」がつくられていく、その端境期にいたのが大和なのでしょう。
競争のある土壌作り自体はとてもいいことです。おそらく、その「土壌」ができあがった日には、阪神の時計も正常な動きになっているはず。
そんな過渡期にあって、大和を筆頭に、現在の中堅たちは損な役回りになってしまった部分は多分にあるように思います。

金本野球と「大和的なるもの」の相性の悪さ

それに加えて、金本監督の志向するチーム作りと、大和の存在感がうまく合致しないというのは動かしがたい事実でしょう。それは今季の起用法、その流れを見れば明らかです。
スイッチにチャレンジという事情はあったにせよ、一軍の沖縄ではなく、二軍の安芸で迎えたキャンプインに始まり、開幕からレギュラーセカンド上本の守備固めという位置づけ。レギュラーショートの北條をある程度我慢して使っていましたが、耐えきれなくなって抜擢したのはルーキー糸原でした。糸原の故障によって、ようやくショートを大和に固定したかと思いきや、復調気配の北條にもう一度トライして、結局またまた大和に帰ってきたというのが今季でした。
ですから、FA宣言後の「絶対に必要」という金本監督の言葉が空々しく感じてしまうのは仕方のないことだったと思います。

金本監督がチームに必要としているのは、明確です。それは「強さ」。もっと言えば、「怖さ」であり、「力」です。相手がすくみ上がるような、威圧感であり、破壊力です。
なので、ロジャースが「パンダキャラ」でなんとなく人気になるのは、耐えられなかったでしょう。助っ人外人に「愛くるしさ」なんて言語道断。欲しいのは相手に与える「恐怖」なんですから。

大和の守備の巧さには、破壊的なものはいっさいありません。
気配を感じ取って静かにポジションを変え、その初動もまた静かに軽やかに。低く腰を落としたまま、音もなく足を運び球に追いつきます。球に追いつけば、どこにもムダな力をかけずにやわらかく捕球すると、一点だけに力をこめるように身を翻して送球動作へと移ります。
その動きは優美にして、しなやかで、やわらかく、繊細。そこにあるのは、自然との調和、徹底的に対象物に対して自分を合わせる心づかい。
まるで日本舞踊の師匠か、古武術の達人か、忍者を見ているようです。

「威圧感」と「破壊力」を目指す金本野球は、「大和的なるもの」との相性が決定的に悪い――そうとしか言いようがないのです。

理屈じゃないのよ涙は

大和の美しい守備をチームの根幹に採り入れてほしい。その気持ちは常に強くありました。でも、金本監督はあくまでも自分が志向する野球にこだわるべきで、それは妥協なくやってほしい、若手が希望を持って、競争に参加できるチームにしてほしい。その気持ちも劣らず強くあります。

大和が移籍するには相応の理由があり、それは理屈として十分理解できるものです。
だから、つらいのです。
これはもう理屈じゃないんですよ。
もう、別れたほうがいい。別れるしかない。そして、ついに別れの時がきた。
そんなことは、もうわかっているんです……。

来年になって、ヨソのチームで、ヨソのチームの優勝のために必死になって練習している大和、ヨソのチームメイトと笑いあっている大和を見れば、この気持ちは変わるでしょう。

つまり、もはやこれは、「恋愛マター」なのです(笑)。

【前の記事】「DH制」とっととセ・リーグでも採用しやがれ!もっと『鳴尾浜トラオの「虎バカ旬だより」』を読む
鳴尾浜トラオ

著者プロフィール 鳴尾浜トラオ

ライター。 主な虎活動は「自称阪神タイガース評論家」【リンクhttp://torabaka.jp/torao/】(ブログ・03年~)、書籍『虎暮らし』(扶桑社08年)、阪神タイガース公式携帯サイト(10~12年・コラム『トラオの視点』)など。他は本名の菅野徹で執筆。