「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)
(2014年5月31日発行/TOブックス)

ありえないほどひどすぎる「あるある本」

「あるある本」は本当に難しい。書き手目線で言うならば、「ヘタに手を出さない方がいい」とも思っている。実際、「あるある本」執筆の依頼が舞い込んだこともあるけれど、「僕には自信がない」とお断りした。なぜなら、「あるある本」には、「膨大な知識」「対象に対する深い愛情と敬意」「ユーモアと批評の絶妙なバランス」、そして「切れ味鋭い文章」が必要な、難易度が高い原稿だからである。

 そういう意味で衝撃的だったのは、「野球あるある本」ブームのきっかけとなった『野球部あるある』(著・菊地選手、漫画・クロマツテツロウ/集英社)だった。同書は上記の要素をすべて兼ね備えており、大きな話題を呼んでバカ売れ、シリーズ化されたのも当然のことだった。しかし、同時に有象無象による「あるある本」の粗製乱造が起こったのも事実。特に今回紹介する『東京ヤクルトスワローズあるある』には腰を抜かした、もちろん悪い意味で。何しろ最初の一発目から強烈なのだ。

001 ドームじゃないけどファン達は雨に強いぞ
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 ヤクルトファンの必須アイテムである「応援傘があるから、雨が降っても平気だ」という「あるある」なのだけれど、面白いかどうかはさておき、問題なのはそこに添えられているイラストだ。雨中の神宮球場、ヤクルトファンが陣取っているのはまさかのレフトスタンド! 対するライトスタンドには巨人ファンの姿が描かれている。どこをどうしたら、こんな間違いが起こるのだろうか? 衝撃はなおも続く。

076 石川が身長の高い選手から三振を取ると嬉しい
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 公称167センチメートルの石川雅規が力投する姿を描いた「あるある」だけれど、ここに添えられているイラストで、マウンド上にいるのはまさかの右投手。これも、どこをどうしたら、こんな間違いが起こるのだろうか?

 選手の似顔絵がちっとも似ていない点については目をつぶることもできたけれど、ここまで明らかな事実誤認に対しては、弁護の余地はまったくない。これはイラストレーターの問題であると同時に、それを看過した編集者の問題でもある。本書は、一事が万事、このテイストで進んでいく。大のヤクルトファンとしては、疲労と怒りとともにページを繰っていくしかないのだった……。

共感なきところに「あるある本」は存在しえない

 ここまではイラストに関する不満をぶつけてきたけれど、文章にも「?」と首をかしげる部分は多い。

142 正直ミスターヤクルトを選ぶのは難しい
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 なるほど、確かに「ミスターヤクルト」の象徴である背番号《1》を背負った若松勉、池山隆寛、あるいは山田哲人など、選ぶ側の思い入れもあって、「ミスターヤクルト」を選定するのは難しい。しかし、問題なのはその後に続く文章なのだ。

ヤクルトにおけるレジェンドの定義が難しい。最近だと宮本や古田が、でも土橋や八重樫、池山もいる。
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ? 「土橋」って土橋勝征コーチのことですよね? 確かにいい選手だけど、彼は「ミスターいぶし銀」ではあるけれども、「ミスターヤクルト」とは呼べない。そして、「八重樫」というのは、もちろん八重樫幸雄さんのことですよね? こちらも、「ミスターオープンスタンス」とは言えるけれども、「ミスターヤクルト」と言うにはムリがありすぎる。

166 八重樫のオープンスタンスを真似してみると
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 これって、「あるある」なのか? 文章が途中で終わっているではないか! 続く文章には「構えまでは真似できるが、絶対にスイングで腰を傷める」とあるのだが、やはり「あるある感」は皆無だ。

177 外野の古田も見てみたい
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 そうですか? こうなると個人の感想なので、とやかく言うべき筋合いではないけれど、僕は外野を守る古田敦也氏に興味はないし、少なくとも「あるある」ではないだろう。むしろ、「ないない」だよ。

206 ロッテファンの存在
「東京ヤクルトスワローズあるある」(著・東雲八雲/画・なかむらみつのり)

 これのどこが「あるある」なのだろうか? 解説文には「かなり上の年代になるが、神宮でロッテもプレイしていた時期がある。その関係でちょっとロッテの事を気にかけている?」と書かれているけれど、これを読んでもよく意味がわからない。

 一事が万事、こんな調子なのだ。「野球ダメ本」に必ず登場する「バファローズ」を「バッファローズ」と誤記していたり、なぜか尾花高夫が「ヤクルト監督」経験者になっていたり、「ラミレス」の表記が「RAMIREZ」ではなく、「RAMIRES」になっていたり、じん帯「断裂」をなぜか「断絶」と表記していたり、不思議な妄言が延々と続くのである。

 冒頭に記したように「あるある本」は本当に難しい。全球団の「あるある本」を試しに購入して読んでみたけれど、『読売ジャイアンツあるある』や、『中日ドラゴンズあるある』、あるいは『千葉ロッテマリーンズあるある』などは、きちんとした書き手によるもので楽しく読むことができた。けれども、一歩間違えると、本書のような悲惨な事態を招いてしまうのである。自戒の念を込めて、本書を「野球バカ本」ならぬ、「野球ダメ本」としてご紹介する次第である。

【前の記事】テレビが壊れてもそのまま……スーパースター大谷翔平から出てくるのは野球野球野球もっと『プロ野球バカ本』を読む
長谷川晶一

著者プロフィール 長谷川晶一

1970年東京都生まれ。 早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経て03年からフリーランスに。 子どもの頃からのヤクルトファンで、2005年からは12球団すべてのファンクラブに入会。日本で唯一の「12球団ファンクラブ評論家Ⓡ」として商標登録済。